インターネットなどで寄与分についてを調べた方が、「私は介護をしていたのだから寄与分をもらえるはずだ」というお話をされることがあります。
子が2人いる夫婦を例として考えてみましょう。
父親は既に他界していて、母親は長女夫婦と暮らしていました。
また、遠方に二女がいます。
長女は5年に渡り母親を介護しており、具体的にはお風呂、排せつ、食事の介助を行っていました。
また、長女は母親の年金も管理していました。
実際は、長女がお小遣いとして使うこともあったようですが、母親の身の回りの世話にかかるお金は、ここから支出していました。
そして、母親名義の土地の上に長女の夫名義で建てた家に、母親と長女夫婦は住んでいました。
母親が他界し、相続が発生した時、長女は寄与分を主張できるのでしょうか?
このケースで長女の寄与分が認められるためにはいくつかのハードルがあります。
ポイント1
1つ目のポイントは、長女がしていた介助が金銭的にいくらと評価できるかどうかがとなります。
長女が母親にお金を渡しており、それが証拠として残っている場合には、寄与分の主張は比較的認められやすいです。
★金銭を渡していた場合の寄与分の計算はこちら
しかし、介助という行為を金銭的に評価することは容易ではなく、長女が寄与分を主張することは難しいです。
ポイント2
2つ目のポイントは母親の年金の使い方です。
長女は、母親の生活に必要な支出については母親の年金を使っており、長女が自腹を切って母親の面倒を見ていたわけではありません。
この点からも、寄与分の主張は困難だと言えます。
もし長女が自腹を切っていたのであれば、寄与分が認められる可能性が高くなったと考えられます。
さらに、母親の年金を、少額ではあるもののお小遣いとして使っています。
この点については、遺産分割の調停で預貯金の履歴が開示された後、二女側の弁護士から指摘される可能性が高いです。
その上、長女の自宅の名義は長女の夫ですが、土地は母親名義です。
二女は、この点について、「お母さんの土地を使っていたのだから面倒を見るのは当たり前よ!」と言ってくることでしょう。
以上のような点を踏まえると、このケースで長女が寄与分の主張をしても、その主張が二女や裁判所に認められる可能性は低いです。
では、長女はどうすれば良かったのでしょうか。
遺言書の活用
実際に、このケースのような事例はよくあります。
長女は、母親に、遺言を書いてもらえば良かったのです。
遺言の中身は、長女に遺産を多く配分するというものにします。
二女としても、長女が母親の面倒を見ていた以上、遺言があれば遺産を長女に多く配分されてもやむを得ないと考えるでしょう。
このような遺言を母親に書いてもらわないと、長女としては介助をした行為が報われないこととなりかねません。
金銭的に報われるから介助や介護をするという考え方は、道義的に反していると思われる方もいるかもしれません。
しかし、実際のところ、介助や介護はとても大変なことです。
「遺産を多くもらえる」という報いがないと、介護をした方が善意を搾取される、つまり、頑張った人が損をするという事態になり、介護をする動機も失われていきます。
昔は、長男のお嫁さんが長男の親の介護をしていました。
それは、長男が親の遺産のほとんど全てを相続するという暗黙の了解があり、他の兄弟もそれに異を唱えなかったからです。
しかし、時代は変わっており、善意を搾取する兄弟も見られます。
遺言を書いてもらわないと、介助や介護をした方が報われず、後で精神的に傷つくという事態になりかねませんので、是非遺言を書いてもらうようにしてください。
親に言いにくいという方もいらっしゃるかもしれませんが、「遺言を書いてもらいたい」と言う勇気を持ってください。
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