遺言が無効になる場合
このようなご相談を受けることが近年増えています。
ずいぶん前に母に先立たれ、一人暮らしをしていた父が亡くなった。 二男である私や妹は実家から距離のある地域に住んでいたが、たまに父の様子を見に行っていた。 父は、身体は健康だったが、ここ数年は物忘れがひどくなっていたように思う。 兄は父の近所に住んでいたものの、兄は父の面倒を見ている様子はなく、逆に父の財産を勝手に引き出しているような素振りすら見えていた。 葬儀の後、遺産分割の話が出たところ、兄から父が残していたという遺言書を見せられた。遺言書には父の遺産のすべてを兄に相続させるという内容が記されていた。 |
兄は、遺言書に従って手続を進めると言ってきたが、生前の状況からして父がこのような内容の遺言を残すとはとても思えないとのことでした。
遺言の無効を主張したいがどのようにしたらよいのでしょうか。
「遺言書がある」と言われると、内容に納得できなくても遺言書に従って遺産分割するしかない、と思われる方も多くいらっしゃると思います。
しかし、内容や形式によっては遺言の無効を主張できる場合があるのです。
本コラムでは、遺言の無効を主張するためのポイントなどについて解説していきます。
遺言が無効になるには2つのパターンがあります。
1つは、遺言書に形式面での不備があった場合、もう1つは遺言者に遺言をする能力が欠けていた場合です。
○形式面での不備があった場合
遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言は、
・全文が遺言者の直筆で書かれていること(ただし、平成31年1月13日以降は、財産目録についてはパソコンで作成してもよいこととなりました。)
・作成日の日付が記載されていること
・遺言者の自筆による署名及び捺印があること
・書き損じがあった場合の訂正や加筆が正しくなされていること
など、法律で厳格に形式が定められています。
決められた形式に基づいて作成されていない自筆証書遺言は無効となります。
公正証書遺言の場合、公証人という遺言書作成の専門家の立会いの下で作成されているので、形式面で不備があるということは考えにくいです。
しかし、本来、証人になれないはずの人が証人になっていたというようなことがあった場合には、公正証書遺言であっても無効となります。
○遺言者に遺言をする能力が欠けていた場合
15歳以上の人であれば遺言を残すことができます。
ただし、認知症などによって、正常な判断能力(これを「意思能力」といいます。)がない状態で作成された遺言書だと判断された場合には、その遺言は無効と判断されます。
遺言書の効力を争うのは遺言者が亡くなった後のことになるので、遺言者本人に当時のことを聞くということは当然のことながらできません。
また、正常な判断能力があったかどうかは怪我のように目に見えるものでもありません。
そこで、遺言をする正常な判断能力があったかどうかは、遺言書作成時の客観的な事情から判断していくことになります。
診断書やカルテなど、認知症であったことが医学的に証明できる場合には遺言は無効とされる可能性が高いです。
医学的に証明できるような書類がない場合、以下の点などをもとに検討することになるでしょう。
・遺言書の内容の複雑さ
遺言書は、遺言者がその内容を理解できているかどうか、が問題となります。
例えば、「全財産を〇〇に相続させる」というような単純な内容だった場合には、認知症が多少あったとしても遺言書の効力を否定するのは難しいかもしれません。
逆に、遺言書作成当時に認知症の症状がみられていたにもかかわらず、複数ある遺産を誰にどのように分配するかが細かく指定されているような複雑な内容の遺言書が残されていた場合には、遺言者にそれだけの内容の遺言書を理解することはできないとして無効と可能性が高いと思われます。
・日常生活等
日常生活の中で徘徊や失禁、暴言など認知症とみられる言動が多く出ていた場合には、認知症の症状が進行していたとして遺言書の有効性を否定する要素になると言えます。
・遺言書の体裁
これは自筆証書遺言に限りますが、遺言書の文字そのものや文章の体裁などが元気だったころに比べて明らかに乱れているような場合、遺言をする能力は否定されやすい傾向にあります。
遺言書の無効を主張するにあたっては、法的な知識が不可欠です。
遺産分割でお困りごとがございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。
★弁護士費用についてはこちら
★ご相談の流れについてはこちら